はじめに

電池一本が、清掃工場を数ヶ月にわたって停止させ、数十億円の損害を生む—。 これは誰かのつくり話ではなく、今この瞬間も全国で起きている現実です。

製造業や解体工事業の廃棄物処理担当者の方なら、「リチウムイオン電池は産廃として出せばいい」と思っているかもしれません。 しかし、産廃のリチウムイオン電池を誤った方法で排出することが、深刻な火災リスクを生んでいます。

この記事では、リチウムイオン電池の産廃における発火メカニズム、廃棄物の品目・分類、正しい処理方法、そして2026年4月からの法改正まで、現場担当者が今すぐ知るべき情報を解説します。


なぜリチウムイオン電池の産廃が危険なのか?発火メカニズムを知る

リチウムイオン電池は、スマートフォン・タブレット・電動工具・産業機器など、あらゆる製品に搭載されています。 しかし、廃棄物として処理される段階では「高エネルギーを秘めた爆弾」になりえます。

収集車両・処理場で火災が頻発している

廃棄時の分別や絶縁処理が未徹底であるがゆえに、廃棄物収集車両やその処理施設(清掃工場・資源化施設・粗大ごみ破砕施設)で火災が相次いでいます。

リチウムイオン電池の内部は、正極・負極・電解液・セパレーター(絶縁膜)で構成されています。 通常は絶縁されていますが、次のような経路で発火する可能性があります。

  1. 収集車両での運搬途中の振動による衝撃や破砕施設の機械処理により、電池が物理的に変形・貫通する
  2. セパレーターが損傷し、内部短絡(ショート)が発生する
  3. 急激な発熱(熱暴走)が起き、電解液が分解してガスが噴出
  4. 発煙から着火へ進み、周囲の可燃ごみに延焼する

この連鎖はわずか数秒〜数十秒で発生します。 収集車の場合は走行中に気づかず延焼することがあり、処理場では大型設備に延焼して長期停止につながります。

処理場火災が「億単位の損害」を生む理由

処理場(清掃工場・資源化施設)で火災が起きると被害の規模がさらに甚大なものになります。

  • 施設停止により、周辺自治体のごみ収集そのものが機能不全に陥る
  • 復旧工事に数ヶ月〜1年以上かかり、その間は他施設や他自治体に広域委託
  • 委託費・修繕費・設備更新費が合算され、復旧総額が数十億円規模になる

近年の主な処理場火災の事例を見ると、その深刻さが浮き彫りになります。

環境省の調査では、令和5年度の廃棄物処理時のリチウムイオン電池による火災事故が8,543件発生。

出典:環境省「リチウムイオン電池による火災防止のための啓発強化の取組について」 令和3年度のリチウムイオン電池に起因する廃棄物処理施設等の火災被害総額は、約96億円〜108億円に達しています。

出典:環境省資料(JWR掲載) 「廃棄物処理施設等におけるリチウムイオン電池に起因する火災事故を防ぐための取組について」

近年の主な処理場火災の事例を見ると、その深刻さが浮き彫りになります。

発生場所施設種別時期復旧費用等
埼玉県川口市(朝日環境センター)※1焼却施設(ごみピット)2025年1月約67.4億円
茨城県守谷市(常総環境センター)※2資源化(不燃)施設2024年12月約40億円
埼玉県蕨市・戸田市(蕨戸田衛生センター)※3粗大ごみ処理施設2025年7月約41億円
東京都(中防処理施設)※4粗大ごみ破砕施設2023年11月分別強化の周知を実施

出典: ※1 環境省資料(JWR掲載) 「廃棄物処理施設等におけるリチウムイオン電池に起因する火災事故を防ぐための取組について ※2 毎日新聞「ごみ処理設備が停止 リチウムイオン電池混入か 復旧に40億円」

※3 戸田市公式WEBサイト (リチウムイオン電池が原因である可能性)

※4 東京都二十三区清掃一部事務組合「中防処理施設における火災情報」

表中の施設はすべて処理場(中間処理施設)での火災です。 収集車の段階でリチウムイオン電池が混入していれば、そのまま処理場へ運ばれ、破砕機やコンベアの中で発火します。 火災の「出発点」は排出事業者の分別によるものが大きく、被害は処理場規模に拡大する可能性があるという点をご理解いただけたかと思います。

これらのコストは最終的に市民(税金)が負担します。 産廃として排出する側の「これでよいか」が、社会全体に巨額の損害をもたらしているのです。


産廃としてのリチウムイオン電池の分類・品目・区分

リチウムイオン電池・リチウムバッテリーを産業廃棄物として処理する際、正しい廃棄物の分類(品目・種類・区分)を把握しておくことが重要です。

廃棄物の品目・種類の基本

産廃のリチウムイオン電池は、廃棄物処理法上、一般的に以下の品目に該当します。

  • 金属くず(電極の集電体・外装缶・端子等の金属部分)
  • 汚泥(正極・負極の活物質ペースト。コバルト酸リチウム等の粉体を溶剤で練り上げた半固体状のもの)
  • 廃プラスチック類(外装樹脂・セパレーター等)
  • 廃酸・廃アルカリ(電解液を含む場合)

実務上は、「金属くずと汚泥の混合物」として申告されるケースが多いです。 電池を解体すると、金属部品(集電体・缶)と活物質ペースト(汚泥相当)が一体になっているためです。 電池の形状・状態・解体の有無によって品目の組み合わせが変わるため、排出事業者は処理業者と事前に品目区分を確認することが必要です。

「廃リチウムイオン電池」の取り扱い

廃リチウムイオン電池は、電解液(有機溶媒)を含むため、引火性廃棄物として取り扱われるケースがあります。 運搬・保管において法令上の注意事項が発生する可能性があるため、処理業者の産廃許可の内容を事前に確認してください。

なお、臭化リチウムを含む廃棄物(空調機の吸収式冷凍機から発生する廃吸収液など)は別途「廃酸」「廃アルカリ」として産廃分類されます。臭化リチウム産廃の種類や区分についても、同様に専門業者への確認が必要です。


リチウムイオン電池の産廃処理方法と必要な「許可」

産廃処理の流れ

リチウムイオン電池の産廃処理(回収〜処分)は、以下のフローで行われます。

  1. 排出事業者が処理業者と契約(マニフェスト発行が必須)
  2. 許可を持つ収集運搬業者が回収
  3. 専門の中間処理施設で放電・解体・分別
  4. 有価金属(リチウム・コバルト・ニッケル等)を回収してリサイクル
  5. 残渣は最終処分

許可なき処理は違法

リチウムイオン電池の産廃を処理できるのは、廃棄物処理法に基づく産廃処理業許可を持つ業者のみです。 無許可業者への委託は、排出事業者側にも法的責任が及びます(措置命令・罰則の対象)。

産廃処理費用の相場は処理量・電池の状態・地域によって大きく異なりますが、専門処理が必要なため、一般廃棄物と比べて割高になるケースが多いです。 「安すぎる業者」への委託は不法投棄リスクや行政責任につながるため注意が必要です。


現場担当者が今すぐやるべき5つの対策

リチウムイオン電池の産廃による火災を防ぐため、以下の対策を現場レベルで徹底してください。

① 電池を機器から取り外してから排出する

電池が組み込まれたまま廃棄されると、処理機械が判断できずに圧縮・破砕してしまいます。 可能な限り、電池本体を製品から分離してから排出することが第一原則です。

② 端子部分をテープで絶縁する

取り外した電池の端子(プラス・マイナス)をそのまま放置すると、他の金属片とショートする危険があります。 電気絶縁テープで端子を覆い、ショートを物理的に防止してください。

③ 一般ごみ・不燃ごみに混入しない

廃棄物担当者であっても、社内の他の部門から誤って可燃・不燃ごみに混入するケースがあります。 「電池はこのルートで出す」というルールを部門横断で明文化し、掲示することが重要です。

④ 高温・圧迫環境での保管を避ける

排出前の一時保管においても、夏場の直射日光が当たる倉庫や、他の廃棄物に圧迫される環境は発火リスクを高めます。 涼しく、電池同士が重ならない状態で保管してください。

⑤ 許可業者への適切な委託とマニフェスト管理

産廃処理の適正化には、許可証の確認・マニフェストの適切な発行・保管が欠かせません。 定期的に委託業者の許可更新状況を確認する運用ルールを設けましょう。


2026年4月義務化でどう変わる?産廃回収・費用の注意点

2026年4月より、リサイクル義務化の対象製品が拡大されました。リチウムイオン電池に関連して新たに「指定再資源化製品」に追加されるのは以下の製品です。

  • モバイルバッテリー
  • 携帯電話(スマートフォン含む)
  • 加熱式たばこデバイス

これらの製品の製造・販売事業者には、回収とリサイクルの実施が義務付けられます。 家電量販店やJBRC協力店での回収ボックス設置が拡充される見込みです。

参考:一般社団法人 JBRC「協力店・協力自治体」検索

事業所への影響

製造業・解体工事業では、これらの製品が廃棄物として大量に発生することがあります。 義務化後は、適切な回収ルートを通じた廃棄が法令上の要請となります。 「産廃業者に丸投げ」ではなく、製品カテゴリごとに回収ルートを整理しておくことが必要です。


まとめ:「たかが電池」が現場を止める

リチウムイオン電池の産廃は、分類・処理方法・排出手順を誤ると、収集車・処理施設の火災という深刻な事故につながります。 一件の火災が数十億円の損害と市民生活への影響を生んでいる現実を、産廃に関わる担当者全員が共有したうえで、適正な分別保管~処理委託を実施しましょう。

今日からできる行動は3つです。

  1. 外す:機器から電池を取り出す
  2. 絶縁する:端子にテープを貼る
  3. 許可業者へ委託する:マニフェストを適切に発行する

リチウムイオン電池の産廃処理でお困りの方へ

「自社から出るリチウムイオン電池の産廃分類がわからない」「適切な許可業者を探している」「マニフェストの品目設定を相談したい」—そのようなお悩みをお持ちのご担当者様、まずは、お気軽にお問い合わせ、ご相談ください。